「ガヴォッタ」

2025年11月17日(月) 20:00開演

阿部千春

バロック・ヴァイオリン
ヴィオリーノ・ピッコロ

三橋桜子

チェンバロ




入場料金:4000円



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〔会場〕
カフェ・モンタージュ ≫ 地図
京都市中京区五丁目239-1(柳馬場通夷川東入ル)
TEL:075-744-1070


【プログラム】


A.ストラデッラ:
シンフォニア第2番 ニ長調

A.コレッリ:
ソナタ ヘ長調 op.5-4
Adagio
Allegro
Vivace
Adagio
Allegro

C.A.ロナーティ:
ソナタ 第3番 ニ短調
Largo
Spirituoso
Largo
Presto
Giga

編曲者不詳
コレッリの"ガヴォッタ"を主題とした7つの変奏曲 (1)

G.F.ヘンデル:
ソナタト長調 HWV358 (2)
Allegro
Adagio
Allegro

F.ジェミニアーニ:
ソナタ イ短調 op.4-5
Andante
Presto
Allegro affetuoso


(1)ヴィオリーノ・ピッコロ独奏
(2)ヴィオリーノ・ピッコロとチェンバロ

ローマからメトロポリスへ

《1700年頃のローマ》
今年2025年は、キリスト教カトリック巡礼者にとって重要なローマの聖年です。西暦1300年以来、教会とその信者たちは、人間の一生に数回しか経験できないこの稀な記念日(14世紀当時では100年、現在は25年ごと)を祝ってきました。 ヨベルの年とも言われるこの祝年の紀元は、ユダヤ暦において7年ごとに訪れる安息年が7回訪れた、その次50年目に当たる記念年です。雄羊の角(ヨベル)笛でその到来が知らされました。この年は自由と解放を祝う年であり、畑は耕され、奴隷は解放され、借金は帳消しになります。

カトリック教会の聖年1700年において、当時のローマ法王インノケンティウス12世、そして後継者クレメンス11世は公共の場でのあらゆる娯楽を禁止、バロック時代に生まれ発展したオペラは、この時期ローマでは消滅します。 音楽活動は教会もしくは宗教的行事として行われることが主となりました。

この年にアルカンジェロ・コレッリ (1653-1713) のヴァイオリン・ソナタ作品5が発表されました。最初の6曲は教会ソナタ、曲集の後半は室内楽ソナタのスタイル(12曲目はラ・フォリア)で書かれています。一般に教会ソナタにおいては緩-急-緩-急の4楽章をとることが多く、室内ソナタではフランス風器楽組曲を導入した舞曲も交えての構成となっています。 ローマで同僚であったアレッサンドロ・ストラデッラ (1643-1682) は教会スタイルのシンフォニアを作り、同僚のカルロ・アンブロジオ・ロナーティ (ca.1645-1710/1715) はこれらの器楽曲スタイルに南ドイツ/オーストリアのヴァイオリン技巧を取り入れます。このふたつの器楽形式はヨーロッパ中に広まり、コレッリの弟子達はこの形式から、ヴァイオリンのイデオムに即した語法を模索していきます。

《ロンドンの音楽活動》
18世紀、ヨーロッパで随一のメトロポリタンであったロンドンでは、1回の革命を経て産業が発達し、市民階層が力を持つようになりました。野心的な音楽家達にとって、魅力的で自由なマーケットが出現したのです。1712年にドイツ・ハノーファーからロンドンに飛び出しオペラ興行を始めたのが、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル (1685-1759) です。 彼のオペラのオーケストラでは幾人かのコレッリの弟子達が活躍していました。この時代、コレッリの作品集はロンドンでも大人気で、様々な編曲もなされています。 イギリス・マンチェスターのヘンリー・ワトソン音楽図書館に残されている、91曲の様々な作品が収録されているコレクションには、ヨーロッパ中に広まっていたコレッリの作品5からのガヴォットのテーマを使ったヴァリエーションが含まれています。

また、ヘンデルのソナタト長調 (ヘンデル作品番号358) は、自筆譜がイギリス・ケンブリッジのフィッツウィリアム博物館に残されている初期の作品で、出典には楽器指定、テンポ、また曲名も書かれていません。1706年から1710年、ヘンデルのイタリア滞在時期に書かれたとされています。この曲はヴァイオリンには音域が高く、演奏される機会が少ないのですが、今回はコレッリのテーマによる変奏曲とともに、ヴィオリーノ・ピッコロの演奏にてご紹介します。

ルネサンス後期・バロック初期にかけて、同族楽器によるコンソートが好まれていました。リコーダー、ヴィオラ・ダ・ガンバのコンソートは現在でも演奏される機会が多いのですが、ヴァイオリンコンソートも存在していました。また、曲の音域により楽器を使い分ける演奏習慣が長く残っており、ヴィオリーノ・ピッコロはそのコンソートの中での最高音域を受け持つ楽器でした。コンソートの習慣が廃れたのちも、この楽器の記述は18世紀半ばまで続きます。 例えばレオポルド・モーツァルト (1719-1787) は自身のヴァイオリン教則本 (1756) で、「この4分の1、もしくは2分の1サイズの楽器は子供用に用いられるのみになったが、以前はコンチェルトがつくられ、セレナーデ(夜想曲)にも用いられた」と述べています。クラウディオ・モンテヴェルディ (1567-1643) のオペラ、「オルフェオ」(1607) では、violini piccoli franceseとして、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (1685-1750) のブランデンブルク協奏曲1番ではソロ楽器として、バロック時代全般に渡り使用されました。 楽器のサイズは様々で、小さいものは2分の1の分数楽器くらい、大きいものは4分の3くらいです。調弦は普通のヴァイオリンよりも3度高い b-f-c"-g"であることが多いです。今日使用するヴィオリーノ・ピッコロは1613年 Girolamo Amati作のオリジナル楽器のコピーです。

フランチェスコ・ジェミニアーニ (1687-1762) も、イタリアからロンドンへと拠点を移しフリーで活躍した音楽家です。ヴァイオリンをロナーティやコレッリに師事、ロンドンに渡り1715年にはヘンデルの伴奏でジョージ1世に御前演奏を披露しています。演奏家として、また教師として数多くの作品集、教則本を出版していますが、そのうちの合奏協奏曲集作品5は師匠コレッリのヴァイオリンソナタ集作品5を編曲したものです。 ジェミニアーニは、人気のあったコレッリの古典的な作風を踏襲する一方で、最新のギャラント様式、スコットランドやアイルランドの民族音楽をも取り入れ、幅の広い活動をしました。1739年のヴァイオリンソナタ集作品4はギャラントな内容で、サロンでの需要に合わせたものとなっています。


― 阿部千春


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バロックヴァイオリンの阿部千春さんとチェンバロの三橋桜子さんの初共演となる本公演。バロックヴァイオリンとチェンバロに加えて、ヴィオリーノ・ピッコロという珍しい楽器も登場して、バロック音楽発祥の地イタリアから大都市へと伝播する音楽の軌跡をダイナミックに辿る一夜をお聴きいただきます。

終演後にはレセプションも開催予定です。グラス片手に余韻の漂う中でのひとときをお過ごしください。


― カフェ・モンタージュ 高田伸也