フランク・ブリッジ

フランク・ブリッジのことは、知らない。

イギリスの作曲家 フランク・ブリッジの作品に触れることのできる機会はあまりない。彼は1917年にチェロソナタを書いていて、ロストロポーヴィチがベンジャミン・ブリテンのピアノで録音をしている。それが同じ年に書かれたフォーレのチェロソナタと何かを共有している気がして、色々と想像を巡らせていた。

フォーレの作品は、フランス精神の神髄が現れたものとして、有名な作品以外はちょっと近寄りがたい雰囲気をまとっている。しかし、そのフランスの精神を追いかけて過去を遡っていくうちに、その精神はしょっちゅうドイツに行ったり、ウィーンに旅行したり、あちらから人を迎え入れたりしている。

マリー・アントワネット!不意に出てきたその名前。マリア・テレジアの娘は、なるほど母の啓蒙思想をフランスに持たらしたのか。
モーツァルト!その天才の成熟を色々な意味で後押ししたパリの滞在で、彼は何ごとかをパリに残していったのか。

マリア・テレジアの宮廷楽長グルックはパリに行き、ハイドンはロンドンに行き、メンデルスゾーンもリストもショパンもパリとロンドンに行き、シューマンはどこにも行かなかったけれど、ハインリヒ・ハイネが、つまりドイツロマン派のもう一つの中心が、ショパンとほぼ同じだけの間、パリに存在していた。

ドイツの精神とか、フランスのエスプリというのは何であろうか。
フランク・ブリッジとガブリエル・フォーレが第1次大戦を体験して書きあげた二つの作品に、何か共通するものがあるということは、一体どういうことなのであろうか。

時代の精神
ルソー ヴォルテール ナポレオン ゲーテ カント ベートーヴェン ロマン派から1848年革命へ… ここでワーグナーが登場する。

およそ人間的なものの一切が成熟に向かった大行進が、世紀末ウィーンに押し寄せる様子を見る中で、それがもはや、一つの都市や国だけの現象であるはずがないということは、すでに想像のつくところではないか。

フランク・ブリッジは、自らは動かずに、その大行進を正面から受け止めた作曲家である。ブラームス、フックスからツェムリンスキー、そしてシェーンベルクに受け継がれていったウィーン。その激流に押し流されて、気が付けばそこはなんとロンドンなのである。

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2017年6月16日(金) 20:00開演
「ピアノ五重奏」
‘the Bistro W’
http://www.cafe-montage.com/prg/170616.html