ドビュッシーのいない世界。

1848年12月
革命の混乱を一段落させる形で、ハプスブルク最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ1世が18歳にして皇帝に即位した、その1週間後にフランスで行われた大統領選挙で75%に迫る票を獲得して勝利したのがルイ・ナポレオン、その3年後のクーデターを経て皇帝に就任したナポレオン三世である。

1861年3月
ナポレオン三世の勅命によって、ワーグナーの「タンホイザー」が大改造後のパリで上演された。娯楽要素の少ない音楽劇の上演を妨害する笛や怒号がオペラ座に鳴り響く中、陶酔状態で舞台を見つめていたシャルル・ボードレールの姿があった。翌1862年、クロード・ドビュッシーが生まれた。
“ドビュッシーのいない世界。” の続きを読む

ブラームスと、若きウェルテル

ウェルテル、と言った覚えはない。

実際、ブラームスは出版社ジムロックにこう書き送った。
「ピストルを押し付けた頭を楽譜の表紙にすればいい。この作品のイメージが湧くだろう?それに使う僕の写真を送るよ!もし色付けしたいと思ったら上着は青でズボンは黄色、乗馬靴を履かせるんだ。」 “ブラームスと、若きウェルテル” の続きを読む

「ペレアスとメリザンド」 ミンコフスキ=オーケストラ・アンサンブル金沢

ことのはじめ
さまよう 出会う 魅惑される 誘惑する
運命なきところに 運命の糸が芽生える

稀有の天才による最高傑作とされ、しかしその実演に触れる機会にめぐまれず ドビュッシーについて考えるたびに、後ろめたい気持ちにさせられてきた。

秘かな、でも最大限の期待と覚悟をもって臨んだ2018年7月30日
「ペレアスとメリザンド」を初めて観た。 “「ペレアスとメリザンド」 ミンコフスキ=オーケストラ・アンサンブル金沢” の続きを読む

ショスタコーヴィチ、最後のソナタ

なぜ月光なのだろう…

ずっと考えていた。 ターンタターン、ターンタターン ショスタコーヴィチがその語りつくせない人生の一番最後に完成させたヴィオラとピアノのためのソナタ、その最終楽章がずっと月光のモチーフで埋め尽くされているのだ。 “ショスタコーヴィチ、最後のソナタ” の続きを読む

フランク、ヴァイオリンソナタ

フランクのヴァイオリンソナタがどのようにして発生した音楽であったか、これまで考えたことがなかった。考えようがないとも思っていた。しかし、フランクの全作品中でも際立って古典的な佇まいを示しているこのソナタの第4楽章に、突然別の音楽が重なって聴こえたことでそうも言っていられなくなった。 “フランク、ヴァイオリンソナタ” の続きを読む

ショパン、ベートーヴェン

ショパンには2歳年下の妹がいた。

名はエミリア。音楽のショパンに対して、文学のショパンともなるべき才能を若くして示した彼女は、兄フレデリクとともに「文芸娯楽協会」を立ち上げ、会長に就任した兄の秘書を務め、演劇の台本を書いて共に演じた。

兄との共作「失策、あるいは見せかけのペテン師」では、迫真の演技で市長役を演じる兄フレデリクの横で、エミリアは作者役として座っていた。エミリアは人を笑わせることが得意で、病弱な兄とは違って常に快活であったのに、14歳にして結核にかかり、そのまま回復することなく2か月後に死んでしまった。 “ショパン、ベートーヴェン” の続きを読む