音楽の世界では珍しくない、というよりは、そのほとんどがごく若き日に経験してきた「才能の開花」。
バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスからドビュッシー、メシアン、マイルス・デイヴィス、キース・ジャレットまで、その人生の早い段階で抜きんでた才能を周囲に知らしめていた人達の生涯が、そのままひとつの歴史を形作っています。
昔のある日、車の中で何とはなしにかかっていたFMラジオから、この世のものとは思えない音楽が聴こえてきて、家についてもそのまま車に留まって曲の最後までを追い、圧倒されてフラフラになった頭に「コルンゴルトのピアノ三重奏曲 作品1 でした。」というアナウンサーの声に続いて、誰であったかゲストの人が「作曲家が、まだ13歳の時の作品…」と応じたとき、果たして自分はさっきまでとは違う世界にいるのではないかという衝撃を受けたことを思い出します。
そうしたことは音楽では珍しくないはず、であるにも関わらず、その才能開花の度合いがあまりに現実離れしているために正当に認識されてこなかった天才の筆頭がコルンゴルトです。
そんなコルンゴルトがピアノ三重奏曲の3年後の1913年、つまり16歳の時に作曲したヴァイオリンソナタは、たとえ何歳の時に作曲されたにしても、成熟を超えてひたすら黄昏に向かっていくようなこの作品がドビュッシーのソナタより3年以上も前に書かれていたことをどのように説明すればよいのかと途方に暮れてしまいます。
いつまでたっても時代が追いつかないとは言っていられない、途轍もない才能に出会う一夜。コルンゴルトの存在をごく早い時期に認めて激賞したシュトラウスが、24歳の時にすでに確立された手法で描いた傑作とともにお聴きいただきます。
今年はどんな年だったか、と締めくくるにはまだ早い12月の土曜日になると思っております。
皆様のご来場をこころよりお待ちしております。
― Cafe Montage 高田伸也