「雲、ワーグナー、ブラームス」
2025年2月24日(月・祝) 20:00開演
【プログラム】
L.v.ベートーヴェン=リスト:
歌曲集「遥かなる恋人に」op.98 (1816/1849)
R.ワーグナー=タウジヒ:
『トリスタンとイゾルデ』からの3つのパラフレーズ (1865) より
「愛の場面、変容」
J.ブラームス:
幻想曲集 op.116 (1892)
ベートーヴェン唯一の歌曲集『遥かなる恋人に』の歌詞の中には、「遥かなる恋人」という言葉は一度も出てきません。そのかわりに「雲」"Wolke"という言葉が度々登場します。
歌い手は「雲」の集まるところに辿り着きたいと歌い、愛する人を追うようにと「雲」に願い、愛する人を目にすることの出来る「雲」に憧れたりします。
この「愛する人」が誰なのか、ベートーヴェンほどの人が会いに行けないほどに高貴な人なのか、もしくは自由な身分ではない人なのか…様々に仮説が立てられ、この歌曲が書かれる4年前にベートーヴェンが書きながら出さずにずっとしまわれていたという有名な「不滅の恋人」への手紙とともに、ベートーヴェンを巡るロマンスへの尽きることのない興味はいくつかの映画さえ生み出したほどでした。
さて、2011年にベートーヴェンの生地ボンでとても興味深い学説が発表されました。
この歌曲の元々のタイトルが『遥かなる恋人に』"An die ferne Geliebte"ではなく『遠ざけられた愛する人に寄せて』"An die entfernte Geliebte"であったという事実を受けて、"entfernte"という言葉のニュアンスからこの「恋人」はもはや生きておらず、地上を離れて雲の上にいたということがこの歌詞に現れている可能性がある。そこでこの「愛する人」というのは1816年の1月に死去したロプコヴィッツ伯爵夫人であるというのです。
ロプコヴィッツ伯爵というのはベートーヴェンが7つの弦楽四重奏曲、そしてなにより「エロイカ」「運命」「田園」という三つの交響曲を献呈した最重要のパトロンでした。その夫人が亡くなり、友人の日記の中で「まるで全てを失ったようにひどい状態にある」"in einem schrecklichen Zustande ganz wie vernichtet"と書かれるような有様であったというロプコヴィッツ伯爵を見たベートーヴェンが、ヤイテレスという詩心のある若い医師と一緒に詩を書き、音楽をつけて伯爵に捧げようとしたのではないかというのがこの学説の主旨です。
果たしてその年のうちに歌曲集が出来、発売広告には自筆譜と同じ"Entfernte.."の題名であったが、初版本が出来た10月にはタイトルが今と同じ『遥かなる恋人に』と変更されていました。伯爵はその2か月後の12月に死去し、ベートーヴェンが用意した献呈用の豪華本をその手に渡すことは叶わなかったという事です。
届かないところにある何かを、追い続けること。
それはロマン派において常に重要な原動力であり続け、数々の運命的な作品が生み出されました。
ベートーヴェン、ワーグナーそしてブラームスがそれぞれに感じ取った運命が、言葉を越えた音楽として昇華した傑作をお聴きいただきます。
― カフェ・モンタージュ 高田伸也
ライブ音声配信
・最高峰の機材を使用した高音質配信です
・公演から1週間後までアーカイブ視聴可
*映像はございません
料金:1000円