室内協奏曲(伊:Concerto da camera)とは、18世紀以降に複数の独奏者と通奏低音のみで演奏される編成の楽曲として用いられる名称で、独奏楽器(ソロ)とオーケストラ(トゥッティ)とを対比させるいわゆる「協奏曲」とは趣きが異なるジャンルです。
ソリストのみで構成されるそのコンパクトな編成は、同時代の四重奏や五重奏などと題された室内楽と見た目上では同じですが、そちらが後の四重奏や五重奏のように一つの有機的な統一体を目指すのに対して、室内協奏曲は一人一人がソリストとして活躍する「個の対比」が行われる点において楽曲の目指すところが異なるように思います。事実、室内協奏曲は独奏パートと合奏パートが交互に現れるいわゆるリトルネッロ形式で書かれており(しかし、独奏群と合奏パートとの音響的な違いはさほどありません)、協奏曲という言葉の根っこにある「協奏 concertato」原理をコンパクトな編成で追求したものとなっています。
個人的に、後期バロックの室内協奏曲の中でも特にアントニオ・ヴィヴァルディの楽曲群に10代の頃より魅せられて、このレパートリーの全曲リレーを行うというのが当時からの「死ぬまでにやりたいこと」の一つでした。この度、カフェ・モンタージュでその足がかりとなる企画を素晴らしいメンバーと共に実現できることになり、大変光栄に思います。
今回はその室内協奏曲に加えて、短い弦楽のためのシンフォニアの編曲も行うことにしました。当時の資料や残された楽譜を見れば見るほど、協奏曲やシンフォニアは様々な形でアレンジされ、楽器編成が変更されたり、楽章が継ぎ接ぎにされたり、その時その時の演奏機会によって作品の形がどんどん変わっていっていた様が浮かび上がってきます。音楽学的な作業によりすでに完成・出版されている「批判校訂版」を参照することに加えて、さらに考証を進めて柔軟に作品に手を加えてゆくというもう一つの「歴史的な」演奏実践も同時にお届けすることが出来ればと思います。今回の演奏のメインとなる室内協奏曲は、とあるオペラのアリアを転用した楽章、同名の異版が3パターンも残るもの、さらにあの超有名曲にそっくりなもの、と、ヴィヴァルディ本人の様々な改作の軌跡が見られます。有名な『四季』を含む「協奏曲の作曲家」ヴィヴァルディの魅力の、もしかしたらあまり知られていない一面をお聴きいただくため、コンサートという実践の場における「一回性」の意識も大事にしながらこの一夜を作ってゆきたいと思います。
― 菅沼起一