「ブラームス、失われた環」

2025年5月4日(日) 19:00開演

メルセデス・アンサンブル


上里はな子

ヴァイオリン

江口心一

チェロ

島田彩乃

ピアノ



入場料金:3000円



【予約満席】キャンセル待ち受付



〔会場〕
カフェ・モンタージュ ≫ 地図
京都市中京区五丁目239-1(柳馬場通夷川東入ル)
TEL:075-744-1070


【プログラム】


J.ブラームス:
・ピアノ三重奏曲 ロ長調 op.8 (1889)
・ピアノ三重奏曲 イ短調 op.114 (1891)




ミッシングリンクを見出す時

ブラームスの晩年はいつから?

そもそも作曲家に晩年の様式があるとすれば、それはどのような契機で見出されるものなのでしょうか。
モーツァルト、ベートーヴェンそしてシューマンの作品を一望して、ここが晩年の分岐点と個人的に考えている作品にモーツァルトの弦楽五重奏曲 K.516、ベートーヴェンのピアノソナタ op.111そしてシューマンの交響曲 op.120があります。いずれもそれぞれの作曲家が、自身の過去に書いた音楽を振り返り、晩年の様式で作り直しているような作品というところで共通しています。
ここではブラームスと関係の深いシューマンの交響曲について、少し書いてみたいと思います。

このシューマンの交響曲はまず1841年に妻クララの誕生日プレゼントとして書かれ、すぐに初演されたものの出版が見送られたものを10年後に大幅に改訂して1853年に初めて出版となったものです。ようやくここでブラームスが出てくるのですが、ブラームスが1889年にピアノ三重奏曲を大幅に書き換えていた頃、まさにこのシューマンの交響曲の初稿版、つまり1841年に書かれたままの姿での復活初演にブラームスは大きく関わっていたのです。当時ブライトコプフ社で進んでいたシューマン全集の監修をしていたブラームスは、シューマンの交響曲は晩年に改訂された版と比べて1841年の初稿版のほうに優れている面が多くあるという立場をとっており、長らく知られることのなかったこのバージョンをシューマン全集に加えたいと思っていました。なぜかこれに反対していたのが、初稿版を誕生日にプレゼントされた当人のクララなのでした。その同じ1889年にジムロック社でブラームスの初期作品のリバイバル出版が計画されたことを機に、ブラームスは1854年に書いたピアノ三重奏曲の70%ほどを削除し新たに書き換えたというわけなのです。
「ロ長調のピアノ三重奏曲(op.8のこと)を新しく書いたよ。― でも果たして前より良くなったのかどうかな?」とブラームスはクララに書き送っています。2年後の1891年、いよいよシューマンの交響曲の初稿版がブラームスの編纂によって全集に加えられて出版された時、クララは「私は許可していない」と憤慨し、一時ブラームスと絶交も危ぶまれるような状況になったと伝えられています。

ブラームスが古いピアノ三重奏曲をまったく新しく書き換えたことに、シューマンの交響曲初稿版の出版がどれほど関わっているのか、想像するしかないことではありますがこのピアノ三重奏曲とその翌年に書かれた弦楽五重奏曲 op.111が、そのすぐ後に書かれることになるクラリネット三重奏曲 op.114とクラリネット五重奏曲 op.115へと直接繋がってブラームスの晩年を形成する契機となったということが、ここまで長く書いてきたことの主旨です。

クラリネット三重奏曲には初版時よりクラリネット譜に加えてヴィオラ譜が用意されていましたが、ほどなくしてヴァイオリン譜も追加されたようです。その古い楽譜をカフェ・モンタージュで所蔵しており、いつか聴く機会があればと思っていたのですが、今回メルセデス・アンサンブルの皆さんのご尽力で願ってもいないプログラムを聴かせていただけることとなりました。

ブラームス晩年様式、滅多に聴かれることのない重要な二つのリンク
・弦楽五重奏曲→クラリネット五重奏曲
2017年11月に奇跡的な公演がありました)
・ピアノ三重奏曲→クラリネット三重奏曲
(今回の公演です)
これでようやく出揃うこととなります。

大変長くなりましたが、ブラームスの室内楽の中でもとりわけ人気の高いロ長調の三重奏曲、そして瑞々しい抒情と情熱が交差するクラリネット三重奏曲、いずれも素晴らしい名作です。
是非聴きにいらしてください!


― カフェ・モンタージュ 高田伸也

Live Streaming

ライブ音声配信

・最高峰の機材を使用した高音質配信です
・公演から1週間後までアーカイブ視聴可
*映像はございません

料金:1000円