シューベルトの全曲シリーズも終盤に差し掛かり、ピアノ・ソナタはコンプリートに近づいてきました。
今回は個人的に思い出深い2つの「イ長調」ソナタを中心としたプログラムです。
D664の「小イ長調」は中学生のときにコンクールの課題曲として出会い、その勉強の過程でたくさんの歌曲を知り、シューベルトの世界に耽溺するきっかけとなった1曲です。その経験がなければ今頃シューベルトなど弾いていなかったかもしれません。まさに歌曲のような旋律美に溢れた作品です。
D959の「大イ長調」は2007年のシューベルト国際コンクールのセミファイナルで演奏した曲です。当時このような大規模なソナタに取り組んだことがなく、まとまりがつかず途方に暮れていたのですが、次第にこの「長い旅」にどのように寄り添っていけばよいのかがわかってきました。ひとつの目的地に向かって一直線に進んでいくのではなく、いくつも寄り道をしながら、その都度小さなハプニングに見舞われるような漫ろな旅です。
D959の終楽章のロンドの主題は、20歳のときに完成したソナタD537(ピアノ・ソナタとしては最初の完成作)の緩徐楽章から採られています。今回はこのイ短調ソナタもあわせて、シューベルトの11年に及ぶピアノ・ソナタへの挑戦の軌跡をたどる一夜です。
― 佐藤卓史