本プログラムは、調性が崩壊した20世紀前半における音楽の「構造」の変容を俯瞰する試みです。
シェーンベルクは12音技法という新秩序を打ち立てました。『木管五重奏曲 作品26』はその記念碑的作品であり、娘婿であるグライスレによる二重奏編曲版は複雑なポリフォニーを凝縮することで、構造の骨組みをより透徹した響きの中に浮き彫りにします。
しかしブーレーズはこの新しい秩序に戦慄しながらも伝統形式への固執に反発し、『ソナチネ』においてセリエリズムを冷徹な規律と爆発的エネルギーの衝突へと昇華させ、構造を「その先」へと拡張しました。一方、ほぼ同時期のプロコフィエフは別の角度から秩序を再定義します。戦火の中で書かれた『ソナタ』は古典的形式を基盤としながら鋭い機知と強靭なリズムを宿し、混沌の時代を生き抜くための精神的支柱としての秩序を提示しました。言語の変革を求めたシェーンベルクやブーレーズとは対照的に、プロコフィエフは透徹した形式という視座から20世紀における新たなリアリズムを構築したと言えるでしょう。
構造を遵守したシェーンベルク、それを解体し先へと突き進んだブーレーズ、古典の枠組みを現代の視座で再定義したプロコフィエフ ― の3作品は、20世紀という時代が音による秩序をいかに渇望し、そしていかにその先へと踏み出していったかという、構造的視座の壮大な変遷を物語ります。
― 瀬尾和紀
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シェーンベルクが十二音技法をはじめて作品全体に展開した音楽のひとつである木管五重奏曲 op.26(1924)は、超絶な難技巧の大作であるがために演奏されることが極めて少ない作品。
20世紀の音楽史上もっとも重要な作品が、そんなことではもったいないということか、出版社はこの曲の初演者でありシェーンベルクの弟子で且つ義理の息子でもある作曲家グライスレに編曲を依頼した。
グライスレはヴァイオリン版とフルート版を作った。でも、やはり難しすぎるのか、どちらもほとんど演奏されない…。
パリ・エコールノルマル音楽院教授である瀬尾和紀さん、そして東京音楽大学准教授の菊地裕介さんのお二人による待望のデュオ公演、なんとこのシェーンベルク作品とブーレーズのソナチネが並び、その橋渡しがプロコフィエフという壮観というほかないプログラムを披露していただきます。
20世紀の超絶古典プログラムを生身で演奏する、このままでは失われかねない技術の、受け継ぎ受け渡されるその現在形を正面から受けとめる壮大な一夜。
皆様、どうかお聴き逃しなく。
― カフェ・モンタージュ 高田伸也