今回の公演ではハイドンとボッケリーニの弦楽三重奏を、当時状態の楽器の仕様と演奏習慣を想定して再現演奏します。
バロック時代より少し後ということになりますが、1700年から1800年頃にかけて弦楽器史において目に見える大きな変化といえば、弓の変化が挙げられます。
特に、1700年代前半のコレッリモデルとタルティーニモデルのあとから弓の竿の先にオモリがついた形状しばしば『ハンマーヘッド』などと言われるものが使われるようになりました。
私の手持ちの資料、つまり現存するオリジナルの弓とレプリカの弓、そして書物で紹介されている弓の現物資料によるとこの参考図の弓だけに収まらないほど様々な種類があります。そして1700年代後半には皆さんが一般的に目にするトルテ型の弓が作られていました。しかしそれは弓の竿が現在のものに似ていても、フロッグと呼ばれる毛箱のシステムが多少違いました。
(この辺の話は記憶によれば数年前のモンタージュでのレクチャーでご紹介・お話ししたかもしれません。)
つまり音楽史において、バロック時代から古典派にかけてロココ・ギャラントというジャンルを経る形で音楽的趣味が変化していった、その一部がこの弓の形状に現れたと言ってっもいいと思います。
本日使用する楽器本体は私たちが普段バロック時代の作品を演奏する時に使用するものと同じで、弓がハイドン・ボッケリーニが活躍した時代のオリジナル、あるいはレプリカです。
日本の年号が変わる時に世の中全ての道具が変わることなどはありません(例えばある日に突然全ての車がハイブリッドやEVになることのないように)したがって、例えばベートーヴェンの第九かベルリオーズの幻想交響曲が初演された時の、弦楽器の弓は様々なタイプが混在されていたと聞いたことがあります。現代の時代奏法の現場でも、演奏家それぞれの活動内容の違いもあり全く同じ型の弓が揃うということはありませんが、そのことによって偶然当時の演奏現場の状況を再現できてしまっているということになるのです。
さて、今回演奏する作品の年代の開きは約15年になり、音楽史全体からみると作曲・出版時期がだいぶ近いといえますが、ボッケリーニの肖像画を見ると彼はバロック式の弓(おそらくタルティニーニモデル)を持っています。音楽的要素からこれを好んで使っていたのかもしれません。
対してハイドンと親しかったチェリスト、クラフトの肖像画は残っていないので実際にどの弓を使っていたかわかりませんが、弓製作家のB.de.フィッサーの作品によれば、逆反りの弓(トルテ型)を使用していた可能性はあります…しかしハイドンがこよなく愛していたバリトン(ヴィオラ・ボルドーン)は従来のガンバ弓を使用していたでしょうから、縦型楽器はまだタルティーニ式を好んで使用していた可能性はあります。
演奏ピッチについて・・・こちらは答えが一つに辿り着きません。いうまでもなくバロック時代が現在より約半音低い415Hzだったという説は乱暴な話で、現在は便宜上そのピッチを一般的に使用していますが、同じ地域でも宮廷、教会でピッチは異なります。調べていくとそれは宗教的な理由からピッチが違うということがわかってきました(現在チェロの武澤は山崎製パンLLCホールのオルガン建築に携わっており、ピッチ研究も並行している)。室内楽は文字通り教会では演奏しないもので、大雑把に言えば教会のオルガンのピッチよりは低かったようです。ちなみにヘンデルの劇場ピッチは425Hzくらいだったようです。というわけで、ブルース・ヘインズ氏の論文資料によれば、ハイドン・ボッケリーニの時代は425〜430Hzくらいだったと推定されます。現在のヒストリカルパフォーマンスはこれを踏まえて行われています。
ですので、当公演では425Hzくらいの楽器にあったピッチにて演奏したいと思います。
― 武澤秀平
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古典音楽の父、親しみを込めて「パパ」とよばれたハイドン、そしてそのスタイルの優美さから「ハイドン夫人」と愛称がつけられたボッケリーニの関係は、日本で音楽の父そして母として並び称されるバッハとヘンデルの関係に比することが出来るでしょうか。
クラシック音楽に優美さを求める、その原点をピリオド楽器によるトリオでお聴きいただく真夏の夜。皆様、ぜひ聴きにいらしてください!
― 高田伸也 カフェ・モンタージュ