今回は、作曲家の新実徳英さんに解説・コメントを入れていただきながら、皆様ご存知の──と一言で片付けるには、演奏するたびに気持ちが新たになるような名曲──ベートーヴェンのスプリング・ソナタを中心に、ラヴェルと新実さんご自身の作品を交えてお聴きいただきます。
新実徳英さんとはもう知り合ってかれこれ10年ほどになります。実は新実さんは僕がほとんど最初に知り合ったプロフェッショナルの作曲家の方だったのですが、最初に出会った時から僕にも大変大らかに接してくださる方で、それまでどこかバッハやモーツァルトのような天上の人物とだけとらえていた作曲家という職業の方が、それ以上になんと暖かい人間味のあるものなのかと感じたのを覚えています。考えてみれば当然のことではあるものの、作曲というものがどこかから湧いてきて存在するようなものではなく、同じ生きている人間が書いているものでもあるんだ…と、そんな意識で改めて楽譜を見るきっかけだった気がしています。
そんな新実さんの視点/作品を通しての「名曲」を、素晴らしいピアニストの秋元孝介さんと共にお聴きいただけることをとても楽しみにしています。「現実に聴こえる音だけが音楽ではない、現実に聴こえる言葉だけが言葉ではない……そんな風に僕は考えることにしている」と新実さんはご自身の本の中で仰っておりますが、そんな少しいつもとは違う世界の見えるような公演の機会でありますように。
― 黒川侑