シェーンベルク 夢のすすめ

「二、三十年前も前には、詩人、ことに抒情詩人は…」と1946年にシェーンベルクは語りだした。

「単刀直入な言葉を使わずに…ぼかした表現法を用いるのがよい、とされていたものである。従って、事実や考えは夢から出てきたものように登場し、読者にただ夢見るように勧めるのである…しかし、このような考えはもう一般的ではない。」と言いながら、そうした考えがいかに広く流布して今も一般的であるかということについて、シェーンベルクは書き続けるのである。

「真の作曲家が作曲する理由は唯一 ―それが自分自身楽しいから― であると私は信じている」とシェーンベルクは言い始めた。
兵舎のパーティーのために作曲しているシェーンベルクを見て、同僚が『シェーンベルクは手紙を書くような速さで作曲をする』と驚いたとき、確かに「手紙を書くのは作曲するのと同じくらい時間がかかることが多い」とシェーンベルクは思ったそうだ。

「動機を組み合わせる作業はインスピレーションの働きによって自然発生的に行われるのではなく、音楽以外の概念、すなわち大脳反射の産物…」と言いながら、『室内交響曲』については「インスピレーションのおもむくまま作曲に着手したのは確かである」とシェーンベルクは回想し始める。しかしそう言ってしまう事で、「インスピレーションが完全な形のプレゼントを作曲家にしてくれることもあるのだ、という結論が引き出されかねない」とシェーンベルクは警戒し始める。

悲惨な第二次大戦が終わり、「芸術において最高の価値を生み出すものは、すべて頭脳とともに心をも示す」と断言するシェーンベルクは、一方ではバルザックの『セラフィータ』の中に出てくる、首が短く「心に頭が牛耳られている人間」のようにみられやすい自分を意識しながらも、自分の大脳反射の速度を惜しげもなく開陳して、それでも心のおもむくままに『室内交響曲』の作曲を始めたころのことを、かつて見た夢のように懐かしんでいる。

何のために作曲するのか。
かつて大交響曲が抱いた大空の断片と、それを啄んでいく鳥たちの声が絶えずせめぎ合っているシェーンベルクの『室内交響曲』を聴いている。
世界を変えた男が一生問われ続けた、その答えを探してまだそのあたりをさまよっているようだ。

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2019年12月9日(月) 20:00開演
「A.シェーンベルク」
ピアノ: 松本望
フルート: 瀬尾和紀
クラリネット: 小谷口直子
ヴァイオリン: 瀬﨑明日香
ヴィオラ: 小峰航一
チェロ: 上森祥平
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