エルガー、抽象化される風景

第1次大戦が終結に向かう中、エルガーはイギリス南部サセックス州の田舎に疎開していた。詩人であった妻アリスは傍にいてエルガーを勇気づけながら、段々に自分の体力を失いつつあった。

1918年、エルガーはようやく室内楽をいくつか作曲する気になり、最初に弦楽四重奏を書き始めた。

エルガーの室内楽三部作、ヴァイオリンソナタ、ピアノ五重奏曲、弦楽四重奏曲は、同じく田舎に逃れて書かれたブラームスの室内楽と比較されることがある。でも、エルガーの室内楽にはブラームスの作品のように、大自然そのものはそれほどに登場しないように聴こえる。

エルガーの作品には、自然の中で生活する人たちや、森を駆ける動物たち、そしてときおり吹き抜けてゆく風が、いくども形を変えて登場する。
錯綜する物語を通して、エルガー夫妻を包んでいた自然は姿を現してくる。それはかつてウィリアム・モリス商会が屋内にもたらした自然、パターンとなり、抽象化された自然と重なる。

1919年に弦楽四重奏曲の初演を聴いた妻アリスは「封じ込められた太陽」といって、その第2楽章をとても気に入り、何度も聴きたがった。

しかし、アリスはそう何回もこの作品を聴くことが出来なかった。
翌1920年の4月7日、アリスは息をひきとった。
4月10日、アリスの葬儀で弦楽四重奏曲の第2楽章が演奏された。







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2020年11月5日(木) 20:00開演
「エンヴェロープ弦楽四重奏団」 vol.6
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲 第6番 変ロ長調 op.18-6
エルガー:
弦楽四重奏曲 ホ短調 op.83