月に憑かれたピエロ

ピエロとは何か。

ピエロの名はピエール、つまりどこにでもいる男だ。 ピエロは赤ん坊のような服を着ている。 人がそこに狂気を見出したのは、遠い昔のことだ。

狂気である、という以外に理解のできない激情が自分の中に起こったとして、しかし、人は狂人のふりをしてはいけない。
一度表出した狂気はやがて自分に覆いかぶさってくる。
ハムレットはそうした形の悲劇の古典である。

「月に憑かれたピエロ」はさまざまな狂気と隣り合わせにされて逃げまわるピエロの話。 人を笑わせるために生まれてきたのに、深刻ぶった狂気を次々と押し付けられて、暗闇に白く浮かび上がる、得体のしれない恐怖の象徴となってしまった。

ピエロは故郷のベルガモががひたすらに恋しい。孤独であることが当たり前で、人を幸せにする事だけが生きがいだったあの時代への憧れ。しかし19世紀、ロマン派芸術は壮大かつ深刻さを増す一方で、ピエロの故郷はますます遠くなっていくばかりである。

シェーンベルクはマーラー亡き後のこれからの音楽について考えていた。
「千人の交響曲」のあとに続くもの…
女優ツェーメからジローの詩「月に憑かれたピエロ」の作曲を依頼され、彼女の語りを想定し、「ピエロへの祈り」(第9曲)を書き始めたとたんに、彼はそれを発見した。

言葉がある抑揚をなぞり、あるリズムを刻むとき、そこにあるものは歌とも語りともなり、言葉はその生まれた故郷を探し始める。

– Pierrot Lunaire 15
「ピエロはなんとぎこちなく、ロマンチックに成り果てたことか…クリスタルな溜息が、彼の心の荒地をとおして柔らかく響いてくる….」-

ピエロに押し付けられてきた、芸術という名のグロテスク。時代の求めに応じて、その役割を受け入れてきたピエロが故郷ベルガモに帰る時が来た。

– Pierrot Lunaire 21
「もう長い間軽蔑してきた、喜びというものへの願い...遠く過ぎた時代からの懐かしい香り」

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2015年9月16日&17日
「月に憑かれたピエロ」
太田真紀sop 若林千春pf
泉原隆志vn 小峰航一va 高岡奈美vc
若林かをりfl 上田希cl
http://www.cafe-montage.com/prg/15091617.html