メンデルスゾーン、ロマン派のはじまり

フェリックス・メンデルスゾーンの祖父は、カントと渡り合った哲人モーゼスであり、その祖父が学問において成し遂げたことを音楽でなさんとする中、38歳で死んでしまった。彼がもう少し生きていれば、変わったのは音楽の歴史ばかりではなかったことを思うと、気が遠くなってくる。

祖父モーゼスの業績とは何か。それは大きく言えば、彼以前には会話の成り立たなかったところの言語を創始したことであり、具体的には、その著書「ファイドン」によってロマン派の空気のなかで呼吸するギリシャを目覚めさせたことであった。

祖父モーゼスは、若い時に読書につぐ読書を重ねた結果、背中が曲がってしまったらしい。ハンブルクの商人の娘フロメットは、親から若き哲人モーゼスの評判を聞いて、会うのを楽しみにしていたのだけれど、実際に会ったモーゼスの背中が曲がっているのを見て泣いてしまった。モーゼスは彼女に言った。

「僕は生まれたときに、奥さんになる人の名前を教えたもらったんだ。でも神様からは、その娘は背中が曲がっていると聞いたので、どうかその代わりに僕の背中を曲げて、その娘さんは健やかで美しい人にしてくださいって言ったんだ。」

フロメットはモーゼスと結婚した。

ロマン派の権化、祖父モーゼスの娘ドロテーアはロマン派の化身であるフリードリヒ・シュレーゲルと結婚した。祖父モーゼスの息子アブラハムはファニーとフェリックスの父親となった。フェリックスがロマン派の新たな会話を音楽において創始したのは必然のことであった。

フェリックスが創始した新しい会話は「巨大な網のようにはりめぐらされた19世紀の交換関係」(アドルノ)においてその会話網を貫き、あたかも詩人同士がその見えざる表象によって互いの魂を響かせたように、音が響き合う巨大な空間をヨーロッパ全土に齎した。

その空間の創成期、フェリックスが14歳のころに書いたヴァイオリンソナタがモーツァルトのホ短調ヴァイオリンソナタを母体として、ブラームスのハ短調三重奏やヤナーチェクのソナタを予言し、スコットランド交響曲がシューマンのチェロ協奏曲を通じてドビュッシーのヴァイオリンソナタへと響きあっている。

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’18年10月24日(水)20:00開演
「ヴァイオリンソナタ」
ヴァイオリン:漆原啓子
ピアノ:ヤコブ・ロイシュナー
http://www.cafe-montage.com/prg/181024.html