フォーレ、水面に映る世界

「いま、なにか作曲をしていらっしゃいますか?」

死までの1年間、ガブリエル・フォーレはそのように尋ねられると決まって「いいえ」と答え、いま自分が弦楽四重奏曲を書いているという事実を隠し続けていた。

1922年。
恩師であり、唯一無二の親友、互いにとって最大の理解者であったカミーユ・サンサーンスの死から1か月後、 “フォーレ、水面に映る世界” の続きを読む

ヴェニスに死す、繰り返し

1975年、ベンジャミン・ブリテンは終わりについて考えていた。
自らの死がヨーロッパ音楽の歴史の終結を意味することは、どうしても意識されないわけがなかった。

全てが頭の中で完結され、あとは紙に書き写すだけというモーツァルトの伝説をそのままの形で再現していたブリテンの創作は、それまでに幾度も繰り返されてきたモーツァルトの再来そして死の最後の形態として、1976年、静かに終わりの時を迎えた。 “ヴェニスに死す、繰り返し” の続きを読む