ブラームス、クラリネット

1890年の夏、ブラームスは「これ以降、もう僕の作品が出来るのを待たされたりすることはないよ。」と言って、弦楽五重奏曲 作品111を出版社に送り付けて、これまでにも幾度か繰り返していた“引退生活”を始めた。

1891年3月、クララ・シューマンが63年間にわたる演奏活動に終止符を打った。病気がちで、耳の聴こえも悪くなって、もうコンサートに行くのも嫌だといって引きこもっているクララを見て、ブラームスはつかの間の休息を打ち切ることにした。

「とても素晴らしいクラリネット奏者に出会った」
だからいま、新しい作品を書いていると、ブラームスはクララに書き送った。
しっかりとした演奏をするクラリネット奏者はウィーンにもたくさんいるけれど、本当の喜びをもたらせてくれるのはミュールフェルトなんだ、と。

ミュールフェルトは幼少からヴァイオリンとクラリネットを演奏し、最初はヴァイオリン弾きとしてデビューをした。並行して演奏していたクラリネットの腕を段々と買われるようになり、ワーグナーからもクラリネットをずっと吹きつづけるようにと言われて、ウェーバーの作品などを演奏して大きな評判をとった。

本当にすごいクラリネットなんだと、ブラームスはしょげ込んでいるクララにはしゃいだように言い続けた。その夏、ブラームスは異様な筆の速さでクラリネット三重奏曲とクラリネット五重奏曲を作曲した。急がなければいけない理由があったのだ。

クラリネット五重奏は大変な評判となって、でもブラームスはピアノが入っているクラリネット三重奏曲の方が気に入っていると主張し続けた。まだ、作品を書かなければいけない。ClaraにミュールフェルトのClarinetを聴かせたい。どこででも演奏できるように、もっとシンプルな形で。

1894年 クララ・シューマンは自宅でピアノを弾くブラームスの横に座って、新しく書かれたクラリネットソナタの譜めくりをしていた。その横でクラリネットを吹いているのは、もちろんミュールフェルトだ。

素敵な作品。
クララはひとつの楽章が終わるごとに、いかに自分がこの作品を気に入ったかを長々としゃべりたてた。ブラームスは、しばらくクララのおしゃべりを聞いてから、「次の楽章を演奏していいかな?」といって、クララが喜んでうなずくのを確認してから、その続きを演奏していた。

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2016年12月17日(土)&12月18日(日) 20:00開演
「最後のソナタ」
クラリネット: 村井祐児 ピアノ: 佐藤卓史
http://www.cafe-montage.com/prg/16121718.html